暗鬼(著:乃南アサ)に魅せられた人間心理の恐ろしさ
乃南アサさんの小説はほとんどサスペンスやミステリー、サイコホラーでどれでも面白いですが、今回本屋さんの新刊コーナーで購入したこの「暗鬼(あんき)」は、最後まで読み切ったときに何とも言えない後味の悪さに襲われます。
主人公は普通のOLですがお見合いで結婚することになり、相手の男性の家に嫁ぎ彼の両親や妹弟、祖父母そして曾祖母たちと一緒に暮らし始めます。彼の家族は誰も優しく、主人公はとても大事にされるのですが、一緒に暮らしていく内に家族の行動に奇妙な違和感を覚え始めていく…と言った内容です。
こんなに大家族の中、主人公は良く同居を決意したなと思いますが、彼が好みのタイプだったからと言うことと、彼が主人公を実家に連れて行ったときに家族全員が主人公をとても暖かく迎え入れたことの2つが決め手だったようです。
主人公が嫁いでしばらくした後に、家族の親戚が一家心中事件を起こし、その事件がキッカケとなりその家族の恐ろしい秘密が明らかになっていきます。
その事件後から秘密が明らかになるまで、それぞれの家族の奇妙な行動がいくつか書かれているのですが、その内容が読み進めていくうちに背中がゾクゾクとさせられる気味の悪さを感じました。
成人した義理の妹弟同士が一緒に入浴する、庭に合法であるが麻薬と思われる薬草が栽培してある、夜更けに主人公と知的障害のある義理の弟を除く家族全員が集まり、一家心中事件について話し合うなど、この家族にはどんな恐ろしい秘密が、そして一家心中事件にはどのようにして関わっているのか、読む者の心理をどんどん謎めかせていく描写がいくつも書かれています。
そしてその家族の秘密が明らかになったとき、主人公はその恐怖に怯えながらも家族に人格を破壊されるまで洗脳されて、結局はその家族に屈服し心の底から彼らの信念を愛し、本当の「家族」になっていく…と言った内容でした。
主人公は最初は薄気味悪く感じ、一時は家族から逃げ出すことも考えましたが、主人公の夫や姑による薬物洗脳にとうとう負けてしまいます。その過程で人間が一人の人格をいとも容易く破壊し全く別の思考を持った人格を作り上げることが出来るということ、人間の「悪」や「欲」は底知れないのだということに改めて震撼させられました。