森村誠一著、「人間の証明」を読んで
ホテルのエレベーターから黒人青年の刺殺体が発見される所から、物語は始まる。被害者の青年は「キスミー」と「ストウハ」という謎の言葉を残しており、所轄警察である麹町警察署刑事・棟居弘一郎は本部捜査一課から派遣された那須班所属の刑事・横渡と共に捜査を開始する。
「キスミー」と「ストウハ」の言葉の正体とは何なのか。棟居と横渡の懸命な捜査は青年の隠された過去を暴いていく。
一方、青年の育ったニューヨークでは一人の刑事が捜査を始めていた。
一見すると平凡な警察小説だが、本作では他に失踪した妻を探す男や女性を轢き殺した青年の物語が同時進行する。
そんな三つの物語が交差するラストは、さすが森村誠一と言えよう。
本作で最も注目すべきキーワード。それはすばり「母親」だ。多くの人々にとって、母親という存在はかけがえのない物だろう。だからこそ、この物語は多くの人に読み継がれているのかもしれない。
だが、何よりも重要のは主人公・棟居のキャラクター造形だ。
棟居は子どもの頃に父親を米兵に殴り殺されたという過去を持っており、それが原因で人を信じられなくなってしまう。
そんな棟居が最後、取調室で被疑者に対し語りかける台詞は、涙すら誘う。